人力飛行機主翼設計についての雑感その1

2.「最適化する」とは
 人力飛行機を設計するとき、よく「最適化する」といいます。「最適化」とは、いまデジタル大辞林で検索したところ「特定の目的に最適の計画・システムを設計すること」とされています。「最適の」という形容詞はさておくとして、人力飛行機の設計において「特定の目的」「計画・システム」の二つの名詞は、具体的に何を指すのでしょうか?
 人力飛行機を設計するにあたって、考える対象である「計画・システム」は、素朴には「ハードウェアとしての人力飛行機そのもの」や「製作・運用方法」といった、『いわゆる設計らしいこと』を指すと考えると思います。私も最初は、そのように考えていました。しかし、どうももっと広い範囲について考えを巡らせるべきだったと、引退して振り返ると思ってしまいます。
 まず、「システム」の中には「すべてのチーム関係者と、その人たちの考え方・雰囲気・歴史」を入れる必要があると思います。例をいくつかあげてみます。

例1. チームのメンバーの「ものつくりに対する考え方」は、製作の効率化への考え方や製作物への思い入れなどに反映され、運用や製作手順、それらの工数に影響を与え、制約を与えます。
例2. サークルのメンバーは「人力飛行機を飛ばす」というよりも「ものつくりをしたい」のかもしれません。であれば、外注するべきかせざるべきかが変わってくるでしょうし、製作期間も長くとりたいと思っているかもしれません。
例3. サークルのメンバーは「飛行機を飛ばすのが大好き」という人の集まりかもしれません。であれば、外注も積極的に採用するかもしれませんし、製作期間はできるだけ短くしたいかもしれません。
例4. サークルに入ってくる人数がだんだん減っている場合、製作の工数と製作物の出来のよさをリバランスする必要があるかもしれません。
例5. クソOBが設計に口出ししてくるかもしれません。

そうした、「感情を持った人間」が機体を製作し、人間と機体製作とが一体不可分であるわけですから、考える対象の範囲に人間を入れておかないと、後でひどいことになるかもしれません。私も、そういったところで考えが至らず、いろんな人に迷惑をかけてしまいました。
 次に時間軸について考えると、「現在の設計は将来のチームに対しても責任がある」と考えることができます。例えば、桁を自作しているチームであたらしくマンドレルを購入した場合、少なくとも数年はそのマンドレルの径をもつ桁が作られ続け、それが設計の制約条件になります。また、「ことし立ち上げた」というチームにおいて、「変わった形状の機体を製作」するのか「非常に高い目標に対してリスクをしょって挑む」のか、「チームの成長を第一に考えていく」のかによって、取るべき戦略は変わってきますし、その判断はその後何年にもわたってチームに影響を与え続けます。
 以上を踏まえると、機体製作・運用と一体不可分である「現在・過去・未来のチーム全体」を考慮に入れて、それらがどうあるべきかを、設計者は考えなきゃいけないんだな(いけなかったんだな)と思います(反省しています)。そして、そのたどりつくべき姿、ありよう、目標が「特定の目的」に当たるんだろうと思います。